日本のワイン用ブドウが足りない!北海道で苗木園を始めた農家の挑戦
※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

日本のワイン用ブドウが足りない!北海道で苗木園を始めた農家の挑戦

シェアする

北海道ブドウ苗木園(恵庭市)

冬の澄んだ空気と春の陽気が溶けあう北海道の4月。いつもツイートを拝見している家島直希(@noir2010_chat)さんが、いよいよ就農開始、さらに北海道初となるワイン用ブドウ専門の苗木園を開業されたとのことで、お話を伺ってきました。

北海道移住や新規就農のこと、全国でも数が少ない醸造用ブドウ苗木園を始めた理由、ワイン造りへの想いなど、お話していただいた内容には、新しいことに挑戦するときの高揚感や楽しさが盛りだくさん。変にカッコつけたり大きく見せたりしないお人柄そのまま、苦労話も含め等身大のリアルな姿をお話いただきました。

この家島さんが辿ってきた道や考え方には、ワインや農業に興味がある方だけでなく、漠然と「なにかやりたい」と思っている方にもきっと得るものがあるはず。と感じ、インタビュー記事としてまとめました。

基本的には当日の雰囲気そのまま、あまり堅苦しい内容にはしていないつもりなので、楽にお読みいただければと思います。それではどうぞ。

 

北海道ブドウ苗木園代表の家島直希さん

北海道ブドウ苗木園 代表 家島直希(いえしまなおき):1982年生まれ。関西の会社で10年間勤めた後、北海道へ移住。農業研修を経て2021年に恵庭(えにわ)市で新規就農。2.8ヘクタールの農地を取得し、北海道初となるワイン用ブドウ専門の苗木園「北海道ブドウ苗木園」を開園。ヴィンヤードも計画中。

 



日本ワイン人気で醸造用ブドウの需給が逼迫

品質の向上で、今や日本だけでなく海外からも注目を浴びる日本ワイン。2015年に決まった「日本ワイン」表示のルール(※)なども後押しして、人気が長く継続しており、増産やワイナリーの新規参入が続いています。一方で、急激な需要増によって、原料となるワイン用ブドウの需給が逼迫。生産を拡大しようにも、苗木の供給も追いつかない状況にあります。

 

※国税庁が定める「日本ワイン」表示のルール。日本で栽培されたブドウ使用、かつ国内醸造ワインのみ「日本ワイン」と表示可能。それまでは輸入果汁で醸造したワインと明確な区別がなかった。表示ルール策定は2015年、運用開始は2018年から。

 

そんななか、当初は北海道でワイン用ブドウを栽培したいと考えていた家島さん。しかし拠点としている道央(札幌近郷)では、話す農家の方みんなに「やめておけ」と言われます。ワイナリーの新設やブドウ栽培面積の拡大が続く北海道ですが、気温が低すぎたり、収穫期の秋が短すぎたりして、実は余市のような理想的な環境はそれほど多くないそうです。

そこで考えたのがブドウ苗木栽培への特化。苗木の栽培ならば、気候条件が悪くてもハウスで覆ってしまうなどの対策ができます。北海道はもちろん、全国でも苗木が足りない状況で、販路にも問題はありません。こうしてワイナリーや農家からの声にも応える形で、北海道ブドウ苗木園を始めました。

ブドウ苗木が手に入らない。皆が困っているなら自分が作ろう

ブドウの穂木

 

シロ:新規就農と北海道ブドウ苗木園の開業、おめでとうございます。

家島さん:ありがとうございます。

シロ:今、ワイン用のブドウ苗木が全然足りないんですよね。

家島さん:そうなんですよ。農家もワイナリーもみんな困っています。そもそも日本にワイン用ブドウの苗木園自体が少なくて、だいたいは山形、あとは長野とか山梨の限られた苗木園からみんな買ってるんです。だから北海道で苗木屋やろうかなと言い始めたときは、みんなから「それはいいね!」の大合唱でしたね。ブドウ農家やりたいって言ったときは、さんざんやめとけって言われたのに笑。

シロ:そんなに苗木への期待は大きいんですね笑。でもそれだけ需要あるなら、なんでみんなやらないんでしょう?

家島さん:もともと北海道では難しいと言われています。寒冷地で思うように芽や根が出なかったり、うまく育った苗も冬を越すタイミングでダメになったり。そもそも接ぎ木(つぎき)苗自体、しっかり育つのは4割くらいですからね。

シロ:思ったより少ない!

家島さん:僕が最初にやった年は2〜3割でした。ワイナリーで自社分を作っている僕の師匠が、6割くらいの成功率です。これはすごいと思いますね。

シロ:はー、簡単に増やせるわけじゃないんですねえ。

家島さん:そうですね。温湿度の管理や、台木(だいぎ)との相性などのデータを取って、今後はもっと歩留まりを上げていくつもりです。でもこの話をフランス人の栽培家にしたら、そんなパーセンテージなんて気にしないでダーッと大量に作ればいいじゃないかと言われたんですけどね笑。

シロ:豪快w 母数を増やせばいいという考え方ですね。

家島さん:フランスでも平均4割くらいの成功率らしいんですが、別に1割でも2割でも気にしないって笑。確率はどうでもいい。機械とパートの方々を動員、一気にやって「10万本接ぎ木したら、2万本生き残るんだからいいじゃん」みたいな。

シロ:根本の発想が違っていて面白い!笑

家島さん:湿度は何パーセントくらいがいいんですかねー?と聞いたら、「知らない。高い方がいいんじゃない?」って返ってきて、温度については「ん?寒くなければいいんじゃない」で、いや雑ぅーっ!て思いましたね笑。

シロ:ほんまに雑ー!w 最適な環境を探って歩留まり上げようとするのは、日本人的な発想なんですかね。基本的な話に戻りますが、ブドウの苗木って種からじゃなくて、「フィロキセラ(害虫)に強い土台」に「育てたい品種」の枝を接ぎ木して増やしていくんですよね?

ブドウ接ぎ木のイラスト

家島さん:そうです。ワイン用ブドウ栽培で土台となるのはフィロキセラ耐性のある台木、品種名で言うとテレキ5BBや5Cなど。基本的には実を付けない台木用のブドウです。台木はフィロキセラ耐性だけでなく、耐寒性や成長促進、上の穂木(ほぎ)との相性などをみて決めます。穂木は、ヴィニフェラ種のピノ・ノワールやリースリングなど、育てたいブドウ品種の枝を使います。

接ぎ木、今やってみますか?

シロ:えっ、いいんですか?ありがとうございます。

ブドウ接ぎ木のやり方

ということでブドウの接ぎ木体験をさせてもらいました。

ブドウ接ぎ木のやり方

写真は家島さんのお手本です。

機械でブドウの樹を接ぎ木する

左手に持つ枝と、右手の枝には段差があります。体験用なので同じ枝ですが、本来は機械の上下段に台木と穂木、違う種類のブドウの樹を乗せます。

機械のペダルを足で踏むと上から刃がおりてきて、

2本の枝が1本に接ぎ木される

ガチャコン。上下に分かれていた枝が一本になりました。

接ぎ木苗のつなぎ目

つなげた部分は、こんな感じでΩ(オメガ)の形になります。

シロ:おおー、めっちゃ綺麗にくっつきますね。

家島さん:はい。双方の太さをそろえて、表皮のすぐ内側にある形成層、師管と道管をしっかりつなげてあげるのがポイントです。樹の年輪を合わせるイメージで。数をこなすと、触ればミリ単位以下で太さが分かってきます。最後はつなぎ目を蝋で固めます。あとはこれを苗床に挿してやれば、根と芽が出てきます。この作業を春に延々とやっています。

北海道でブドウ苗木を作る意味

羊蹄山の雪景色-北海道

シロ:こうやって1本1本ていねいに作っているんですね。それでも半分以上がダメになってしまうと。北海道には他にブドウ苗木園がないってことは、本州だったらもっとうまくいくとかあります?

家島さん:温暖な地域の方が向いていると思いますよ。ただ、北海道のニーズとしては、寒冷地に適合した苗木なんですよね。みな内地から買うので、北海道だと言うと「寒冷地を考慮して作ってませんよ」と言われてしまうそうなんです。

シロ:なるほど。そんなん責任持てないってのも分かりますが。

家島さん:そうですね。でも農家やワイナリー側からすれば、もし買った苗が思ったように育たなくても、相談できないわけです。「北海道は寒いですからねー」だけでは次に向けて何もできない。苗木と気候・土壌の相性や、剪定方法など、取れるデータを集めて媒介する立場の人間が必要だと思っているんです。苗木園が北海道にあれば、トラブルがあったときに「じゃあちょっと見に行きましょう」とかもできるじゃないですか。相談して一緒に原因と対策を考えられる。そういうコンサル的なことも含めてやりたいんですよ。

シロ:それはとてもいいポジションだし、めちゃくちゃ意義がありますね!理想的な関係に思えます。

ブドウ苗木園の経営について

ブドウの穂木

苗木園は、ブドウの穂木と台木を仕入れる、または自前で増やしながら、それらを接ぎ木して苗を作り、ワイナリーや農家に販売します。ブドウ苗木は、養生の年数により1年生苗・2年生苗に分かれ、2年生苗は「大苗(おおなえ)」と呼ばれます。通常出荷されるのはこの大苗です。しっかり育っているので、芽が出ないなどの失敗はあまり起こりません。

一方、早く自分の畑になじませたいという理由から、1年生苗の依頼が来ることもあります。まだ生長途中で、活着しない苗が出るリスクはありますが、価格が安くなるというメリットも依頼側にはあります。また、さらに短い「当年苗」もあります。これは4月頃に接いで5月には出荷、そのまま植えてしまいます。苗木園では、毎年新しい苗を作りながら、この当年苗・1年生苗・2年生苗の出荷を調整していきます。


シロ:ブドウ苗木は基本2年かかるんですね。その間のやりくり大変そうに思いますけども。

家島さん:そうですね。農業は基本こんな感じですが、苗木栽培はほかの畑作物とあまりバッティングしないのがいいところです。苗木栽培で忙しい時期は、春先に接ぎ木するタイミングと、雪が降る前に掘り取って保管するとき。それ以外はあまり手間がかからないので、その間はじゃがいも、ミニトマト、ブロッコリーなどの野菜を作ります。将来的には苗木をもっと増やしたいですけど、今は畑もまだまだ空きがありますし。

 

芽だし中のじゃがいも(キタアカリ)

芽出し中のキタアカリ。じゃがいもだけでもかなりの量。

 

シロ:なるほど。確かにこの広さは、苗木だけですぐに使ってしまうものじゃなさそうですね。

家島さん:苗木はかなり狭い範囲で栽培できますからね。全国に苗木を出荷しているところでも、Googleマップでみたら「これほんとに農地?」ってくらい小さいですよ。普通の土地としては広いですけど。それで何万本も生産しています。

シロ:ブドウ苗木は1本いくらぐらいするんですか?

家島さん:今は1本約1500円が相場ですね。やろうと思ったときは750円だったので、短期間にありえないくらい高騰していますね。

シロ:ほんとに需給崩壊してますね……どれだけ作っても全部売れるって感じなんでしょうね。

家島さん:基本は受注生産ですが、簡単に手に入らない状況なのは間違いないですね。ウチはまだおおっぴらに告知していませんが、ちょこちょこ問い合わせはあります。早く拡大したいんですが、まだ試行錯誤していますし、もうしばらくは気心の知れたところと契約させてもらおうかなと思っています。オーダーを受けた分がそろわない事態もあり得ますから。

シロ:なるほど、まずは安定と実績ですね。どんな品種のオーダーが多いですか?

家島さん:北海道であまり出回っていないものが多いですかね、今は。具体的な名前出すと依頼元を特定されてしまうくらいマニアックなのもあるので、ここオフレコで笑。問題なさそうな品種で言うと、ゲヴュルツトラミネールやリースリングなどは、お話いただいてますね。

シロ:承知しました笑。その品種の樹自体はどうやって手に入れるんです?

家島さん:依頼者が穂木を持ってきてくれるんですよ。「これ増やしてくれ」って。台木も自前で持ってくるワイナリー(農家)もあります。穂木も台木も、いずれはこちらで色々な種類を用意するつもりですが、今のところはこれでいいかなと。

シロ:穂木も台木もあるのに、苗木作りは外部に依頼するものなんですねえ。

家島さん:もちろんすべて自分のところでやっているワイナリーもありますよ。でもブドウ栽培とワイン醸造しながら、苗木作りまでとなると大変ですしね。成功率の問題もあります。あるワイナリーの知り合いから聞きましたが、苗木がわずか2%しかうまく育たなかった年もあるそうで。やっぱり外部にまかせたいというところは多いみたいです。

シロ:ヒェッ……ひと桁の成功率じゃ、たしかにやってられないですね。

家島さん:ほんとそうです。ブドウ・ワイン造りに注力したいのに、苗木にリソース割いたうえほぼ全滅では「やる意味ある?」みたいな。

シロ:やっぱり苗木の専門家が必要なんですね。そりゃ歓迎されますよね。いろいろあるんでしょうけど、聞いていると苗木園うまくいく未来しか見えない。

関西から北海道への移住。サラリーマンから農家に

北海道ブドウ苗木園代表の家島直希さん

北海道での新規就農、ブドウ苗木園の開業と、着々と農家として歩を進める家島さんですが、以前は関西で農業とは無縁の会社員をしていました。結婚を機に北海道へ移り住んだのは32歳のとき。2014年のことです。ワイン造りに興味を持って調べ始めてから、北海道で農地を取得しブドウ苗木園を開くに至るまで、何を考え、どのように動いてきたのか聞きました。

ドメーヌ・タカヒコの畑を案内してもらう

シロ:もともとは大阪で仕事してはったんですよね。北海道に来た理由はなんだったんですか?

家島さん:奥さんがここらの出身なんですよ。2人とも大阪で塾の先生をしていて知り合ったんですが、結婚のタイミングで北海道に来ようかとなって。僕もそのころからワインが好きで、業界に関係する仕事がしたいと思っていたので、北海道いいなと。もともと滋賀の田舎で育ったので、農家や田舎暮らしには思い入れもありましたしね。

シロ:なるほど。最初から農家として移住されたんですか?

家島さん:いえ。大阪にいながらだと、調べてもイマイチ分からないことやっぱり多いんですよね。気軽に話聞きにも行けないですし。だから最初は、経験のある塾業界での転職を目指しました。北海道へ行けるように全国区の塾を探して。うまく転職先が見つかってこっちに来てからは、休みの日を使ってワイナリー巡りや農地の情報収集をしていました。

それで、こっちきてすぐドメーヌ・タカヒコに行ったんですが、事前に電話したら「来ていいよ」って、曽我貴彦さん本人に案内してもらえて(※通常見学は受け付けていない)。大阪からポンときた素人に、畑とかワインとか丁寧に説明してもらったんですよ。それで、ああやっぱブドウ作りてえなーって。

シロ:それはいい経験ですねえ。

家島さん:そこから、別のいくつかのワイナリーで作業の手伝いなんかをやってました。

シロ:ワイナリーの収穫ボランティアみたいなやつですよね。そういう情報はどこから?

家島さん:最初に行ったところは、フェイスブックに出ていたのを見つけました。畑の作業だけじゃなくて、除梗・破砕(じょこう・はさい)やラベル貼りなんかもやりましたよ。それで知り合いが増えてあちこち行くように。そうやっていくうちに、ワイナリーや農家とのつながりが増えていきましたね。

ブドウ農家を目指し退職。新規就農研修を始める

トラクター

家島さん:北海道に来て、そんな生活を3年間やってから会社を辞め、農家になるために動き出しました。農家やるには農地を買うか借りるかしないとですが、経験ないとダメって言われるので、農業研修からです。研修は、このエリアだと道央農業振興公社がやっています。ここは基本的に3年間の研修で、1年目は公社の農場で学びます。2年目からは実際に農家へ行って手伝いながら、栽培や経営を覚えていきます。

シロ:研修中はお金って出るんですか?

家島さん:1年目は公社から月16万円の手当(8ヶ月)があります。2、3年目は指導農家から研修手当がもらえるのと、国からの支援金がありますね。

 

就農相談や研修カリキュラムについて
How to 就農:道央農業振興公社

 

シロ:公的な支援がちゃんとあるんですね。研修はブドウ農家でやったんですか?

家島さん:この圏内にはブドウ農家がないんですよ。最初の相談のときにそう言われて、まあ仕方がないし知り合いのワイナリーに教えてもらうからいいやと。でも、僕の親方は60品目作っている農家さんだったので、いろいろやれて逆にラッキーでした。平日は野菜作って、休みの日はワイナリーでブドウ栽培を手伝う生活でしたね。

農地探しが難航、1年の就農浪人を経て認定新規就農者に

畑に植えられた野菜

家島さん:それで研修中に農地探しもやるんですけど、これがなかなか見つからなくて。家がある北広島市でずっと探していたんですが、結局は隣のここ恵庭市(※どちらも札幌市隣接)でようやく見つかりました。でも、そこからがまた大変で……。

シロ:といいますと?

家島さん:研修が終わると、融資などでハンパない優遇措置が受けられる「認定新規就農者」になるんですが、申請には就農地とか経営目標とかをまとめた計画書がいるんです。作成自体も大変ですが、公社からの質問や修正指示に応じて練り直し、まとまった後に会議。また質問と修正を繰り返して、各所が納得するものができたらようやく市に提出です。そこでもまた会議会議。承認までに結構時間がかかるんです。

 

認定農業者制度」「認定新規就農者」は、国・都道府県・市町村などが認定する農業者への支援制度。補助金、低金利での融資や出資、税制の特例など、様々な優遇措置が受けられる。

認定農業者制度について:農林水産省

新規就農の場合は、基本的に「認定新規就農者」が有利。認定農業者の優遇措置に加え、農業次世代人材投資資金による年間最大150万円(最長5年間)の交付金や、無利子での融資などさらにメリットが多い。

農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金):農林水産省

 

家島さん:僕は土地がなかなか見つからなくて、地主さんと口頭合意したのが、研修が終わるギリギリのタイミング。すぐに申請しても、その年の認定はほぼ無理な状況でした。認定を待たず急いで就農開始することもできたんですが、支援なしで新規就農はリスクが高いと判断して、1年延ばしました。市をまたいだので、恵庭市からしたら「え?いきなり融資って言われても……」状態でしたしね。

シロ:はー、なるほど。研修受けてすんなりスタートとはいかないものですね。

家島さん:研修を受けた方は、みんなやっぱり農地探しに時間かかることが多かったみたいですね。農地はいっぱいあるといっても、手放すときはまず知り合いから声かけていきますし。僕も研修時の先輩のつてで紹介してもらいました。

シロ:そうだったんですね。就農浪人中はどうしてはったんですか?

家島さん:ここの地主さんの別の畑で農業バイトさせてもらってました。使っていない畑で野菜作って売ったりも。それで合わせて月15万円くらいかな。足りないので、夜に塾でもバイトしていましたよ。朝から晩まで忙しすぎて死ぬかと思いましたが、ほんと塾講師でよかったーって思いましたね笑。

シロ:いや笑ってるけど、めちゃくちゃハードですやん笑。新規就農ってやっぱいろいろ大変なんですね。

家島さん:うーん、北広島市ですんなり決まっていれば、もしくは最初から全部恵庭市でやっていたら、たぶんもっとスムーズだったと思いますけどね。研修制度や国の支援だけじゃなく、周りの方に助けてもらえることも多いですし。新規就農自体のハードルがすごく高いということはないと思います。

ただ、就農しやすい制度が整ってきているとはいえ、想定外のことも起こります。そのとき自分がどうするかですよね。「新規の人に手取り足取り教えても、すぐに諦めて出て行ってしまう」と、複雑な思いで見ている地元の方もいます。助けはいろいろあるけど、基本的な姿勢が他力本願ではやっぱりしんどいということでしょうね。

シロ:めっちゃ分かります。ハードルを下げるのは大事やと思いますが、お膳立てしないと動かない人では、結局難しいですよね。事業主ですもんね。

家島さん:はい。どんな仕事でもそうだとは思いますが、突破するのは結局自分なので。僕も就農浪人を決めたときは、この1年どうやって乗り切ろうと思いましたが、イレギュラーが起こってもなんとかするしかないんですよね。とりあえず、前職の会社員時代に頑張って、融通きかせられるくらいには偉くなっておいてよかったなあと。

シロ:おっしゃるとおりだと思います。やるしかないし、何がどうつながってくるかも分かりませんよね。

挑戦はまだまだこれから。苗木園からブドウ栽培、ワイナリーへ

北海道の畑

 

シロ:この辺ではやめとけって言われたブドウ栽培ですが、あきらめてはいないんですよね?

家島さん:はい。まずは苗木園を軌道に乗せることですが、ヴィンヤードはやるつもりです。やっぱり自分でワインも造りたいですしね。

シロ:新規でワイナリーやるってなると、どれくらいかかるものなんです?

家島さん:完全新規で畑も醸造設備も全部ゼロからそろえるとなると、1億とは聞きますけどね。規模にもよるし、たとえば設備を入れる建物をちゃんと建てるか、小屋みたいなのにするかだけでも千万単位で変わりますけど。最初は醸造も委託したりするので、ほんとやり方によりますよ。僕の場合は、農地はすでにあるし、苗木も自前で用意できるので少し有利かなとは思っています。「ブドウ作るなら醸造はするよー」と言ってくれているワイナリーもありますし。ブドウ栽培だけなら、杭打ちをぼちぼち自分でやればあまりかからないかなあ。人に頼むと施工費がドンッとかかってきますけど。資材などの年間維持費は150万くらいですね。

シロ:なるほど。

家島さん:あと、ブドウは植えてすぐ実をつけるわけじゃないですからね。条件のいいところで3年。ここでワイン造るなら4年か5年はみておかないと。その間も生活していかなきゃならない。それでやってみたけど、できませんでした。ってこともあり得るわけです。気候や土壌、栽培方法などは常に研究して「いける」と判断してからやるわけですが、それでも結局のところはやってみないと分からない。農業は想定外の連続ですから。

シロ:日本にワイナリーが急増中とはいっても、やっぱり簡単なものではないですね。

家島さん:専業のリスクを避けるなら、別の仕事で収入を得ながら畑や醸造は人に任せるやり方もあります。逆に、ブドウやワインを造りたいだけなら、ワイナリーへの就職など、農家にならなくてもできます。自分は何がしたいのかを明確にすることが大事かなと思います。

シロ:よく分かります。それで家島さんは新規就農の道を選んだってことですね。そういえば、奥様は一緒に農家をやるんですか?

家島さん:いえ、学校の先生やっていますよ。大阪で塾勤務だったころから、ずっと教員を目指していたんですけど、向こうではぜんぜん枠がなくて。こっちきて採用決まったんですよ。

シロ:すごい!地元に帰ってきて夢かなえてるじゃないですか。

家島さん:そうなんです。で、旦那はまったく関係ない農家に転身しちゃったという笑。

シロ:いやいや、次はご自身の番ですね!いつかの「家島ワイン」を楽しみにしています。今日はお話ほんとうにありがとうございました!

 

家島さんからのメッセージ:もし新規就農やワイン造りに興味があって、どう動けばいいか分からないなどあればぜひご連絡ください。一緒に何ができるか考えましょう!北海道で苗木や畑を一緒にやってくれる仲間も募集中です。
連絡先:@noir2010_chat


シェアする

フォローする

コメント