日本でワイン投資ファンドを運用するVIN-NET(ヴァンネット)が破産手続きに入ったというニュースが流れました(2016年)。ワイン投資については私も以前に記事を書いており、ヴァンネットについてもその中で言及しています。
ワイン投資は儲かるのか?リスクや投資方法、ファンドなどまとめ
ヴァンネットは2015年12月の時点ですでに金融商品取引業登録取消処分を受けており、運用が自転車操業であったことが明らかになっていますが、今回3月の破綻報道によると負債額は40億円超。また取引報告の大部分が虚偽であり、保管してあるはずのワインの在庫数も偽造されていたとのことです。
これでは単に投資詐欺で、購入された方のワインも返ってこないことになります。
以前の記事にも書いたとおり、私はヴァンネットに投資しなかったのですが、ワインが好きでファンドに投資されていた方のことを考えると心が痛みます。
さらに哀しいのは、今回のヴァンネット破綻のニュースで、ワイン投資そのものに怪しいというイメージがついてしまったことです。
ネットを見回しても、ワイン投資は怪しい、こんなものに投資すること自体が間違っているという言説があちこちであがっています。
しかし、今回破綻したのはワインファンドであって、ワイン投資そのものとは分けて考えるべきだと思います。
私は投資のプロではありませんし、ワイン商でもないですが、いちワインファンとして今回の問題について考えてみたいと思います。
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目次
ヴァンネットの運用実態
ヴァンネットが運用していたワイン投資ファンドとは、簡単に言うと「皆でお金を出し合ってワインを買い付け、値上がり益を皆で分ける」という仕組みです。
一人でやるより大勢から資金を集めた方が、たくさんのワインが買えますし、銘柄も複数そろえることでリスクの分散ができます。
株や不動産の投資信託と基本的な仕組みは同じです。投資家から資金を集めて投資を行い、分配金として利益を配分します。
しかし今回ヴァンネットでは、新規でワインファンドに申し込んだ方のお金を、既存の投資家にそのまま分配金として支払っていました。
ワインを買わずに、集めた資金をそのまま分配にまわしてしていたのです。過去破綻した安愚楽牧場の和牛オーナー制度と同じで、典型的な自転車操業の投資詐欺です。
最初から詐欺目的だったのか、運用実績が出せず資金繰りが悪化して自転車操業状態になったのか。それはこれから明らかになっていくと思いますが、事実として今はワインを買い付けていないのだから、ワインの在庫はありません。
投資家はお金だけでなく実物資産の回収も絶望的になっています。このあたりの詳しい内容は、実際に投資をされていた方がブログに綴っておられます。
アパート経営奮闘記
※最終的に、投資額の2%前後の債権回収となったようです
ワイン投資は、価格が極限まで下落しても実物が残るので、ワイン好きの方なら自分で飲めばいい(高いワインになりますが)というのもウリの一つでしたので、これは本当にひどい話です。
実際のワイン投資リターンはどうなのか
Liv-exというロンドンの取引所があります。こちらでは、主要なワイン銘柄の価格を指標にしています。Liv-ex50やLiv-ex100など、銘柄数によって表されています。下記はLiv-exより。単位はポンドです。
上のLiv-ex100を例にとると、2011年にピークを迎え、それ以降は下降しており、2016年時点でピークから30%を超える下落です。とても儲かりそうにありませんが、これでも実は2000年時と比べると150%の上昇、つまり2.5倍になっているのです。
高級ワインにとって15年という年月はまだ若造というレベルなので、2000年のワインはまだまだ熟成します。
しかし、価格変動によって高く買わされる年もあり、ヴァンネットは平均で7年の償還ということでしたので、近年の下落傾向を見ると、ヴァンネットがここ数年で利回りを確保できなくなって詐欺的手法に手を出したという見方は、真実味がありそうです。
ちなみにLiv-ex100はファインワインと呼ばれる主要銘柄で構成されており、フランスワインが9割です。なかでも五大シャトー(ラフィット、ラトゥール、ムートン、マルゴー、オー・ブリオン)に代表されるボルドーワインが7割以上を占めます。
そして次のグラフを見てください。ソースは同じくLiv-ex.comです。
これは2010年を基点とした、ここ5年間のワイン価格指標推移グラフですが、下がっているのはボルドー(Bordeaux)の2指標だけで、同じフランスのローヌ(Rhone)はギリギリ価格維持、シャンパーニュ(Champagne)は約20%上昇、イタリアワイン(Italy)も同じく20%上昇です。
そしてその他の世界ワインでは30%、フランスのブルゴーニュ(Burgundy)は40%も値上がりしています。(Burgundyはブルゴーニュの英語読み)
つまり全体的にはワインの価格は上昇しており、ボルドー以外のワインに投資していれば、この期間も儲かっていたことになります。
ワイン投資そのものがあやしいのではない
投資なんて後付けならなんとでも言えるので、ワイン投資は儲かるというつもりはありません。しかし、ヴァンネットの今回の事件によって、ワイン投資は怪しいとか儲からないとか、ワイン投資自体への否定的な見方が広がっていることが残念です。
よく言われることですが、ワインは投資対象として有利な特徴を持っています。
基本的に長期熟成させるほど価値があがる
高級ワインは長期保存が可能です。というか長期熟成により真価を発揮し、価値もあがります。これは投資と相性がよく、長期投資による資産形成に有利な商品です。
同じワインは二度とできない
ワインにはヴィンテージがあります。その年の天候により味や熟成の仕方が変わり、まったく同じワインは二度と造られません。
それに飲み物なので飲んでしまえばなくなってしまいます。つまり需要がいくらあっても供給は限られています。この需給バランスのゆがみがワイン投資の強みです。
他の金融商品と相関が低い
株や債券、不動産など他の金融商品とは値動きが異なるので、分散投資になります。(近年では、ボルドーの高級ワインは中国景気と連動しているんですけどね)
今回はワインファンドが問題を起こしましたが、ワイン投資は現物でもできます。
ベリー・ブラザーズ&ラッド社(BERRY BROs.&RUDD)では、個人でワイン投資ができるよう様々な仕組みを作っています。手数料はかかりますが、購入から保管、売却までスムーズにできるようになっています。積立投資もできるようです。
ワイン投資のメリット・デメリットや、ベリーブロス社についてはこちらの記事で紹介しています。
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投資は自己責任でとはいうけれど
今回のヴァンネットの事件では、資金繰りに困った業者が詐欺的行為を働いたことが問題であって、ワイン投資そのものが人を騙すような商品というわけではありません。
とはいえ、詐欺に利用しやすい要素は満載です……。基本的には富裕層が対象ですし(私は違います)、高級ワインの世界はよくわからないものになっています。
そして上に書いた「同じワインは二度と造られない」→「だから値段は上がるしかない」なんかはそのまま詐欺の文言として使えます。結局は「よくわからないものには投資しない」という投資の大原則を守るしかないのかもしれません。
今回の件では、資産運用で有名な元マネックスの内藤忍氏が、ネットや書籍でワイン投資やワインファンドをすすめていたこともあって、氏のファンでコツコツ長期投資をしてきた方々もヴァンネットのファンドを購入していたのではないかと思います。
ワイン好きの方も多いでしょうし、投資は自己責任とはいえこのようなことになって本当におつらいと思います。それに投資は自己責任といっても、詐欺は犯罪ですから。
内藤忍氏について
私がワイン投資に興味を持ったのは、内藤忍氏の書籍からでした。
今回の内藤氏の責任(?)については、いろいろなことが言われていますが、私が読んだ氏の書籍ではワイン投資やワインファンド、それにヴァンネットのリスクについてもきちんと説明されていました。
- 元本保証商品ではないこと
- 安定した運用実績はあるが、今後を保証するものではないこと
- 嗜好品ゆえ、ブランド力がずっと続くわけではないこと
- ヴァンネットが匿名組合契約の仕組みをとっていること
- 会社そのものの信用リスク
- ワインファンドの手数料の高さや、徴収される税金
- 為替リスク
これらを分かりやすくはっきりと説明されています。私はこれを読んでヴァンネットへの投資を思いとどまりました。
資金の問題もありましたが、匿名組合契約と信用リスク、手数料の高さが許容できないためでした。その意味ではきちんとこれらを記載していただいて私は助かりました。
内藤氏自身は、ワイン投資について10年以上前から考えていて、当時のヴァンネット社長やBB&R社にも話を聞いたうえで始められたそうです。
これだけを見ると、内藤氏も被害者といえます。ただ、内藤氏とヴァンネットの関係が私にはわからないので、これもなんとも言えません。
個人的には氏が投資詐欺に荷担していたとは思えませんし、書籍では「ヴァンネットおすすめ!」なんて言っているわけではありませんので、責任を問うのはどうなのか?とは思います。ただ、影響力の大きな方ですし、お辛い立場だと思いますが、なにか言ってほしいなとは思います。
内藤忍氏のワイン投資本はこれです。
日本にワイン投資は根付くか
欧州ではワイン商以外でも、気に入ったワインを多めに買い付けておいて、のちに売却することは普通に行われています。
また、家庭でも子どもが生まれた年のワインをケース買いし、成人してから、毎年特別な日に一本ずつ開けるといったことが行われています。
後者は投資とは少し違いますが、ワインが深く生活に根付いているのを感じます。
私が子どもの頃は、株や商品先物なんてほんとに怪しい世界でした。それが今は普通の人が格安な手数料で売買し、資産運用にも当たり前に利用するようになっています。ルールや仕組みが整って、透明性が高まってくれば、ワイン投資もそうなると思います。
市場ができて、ワインに投資資金が向かい、さらにおいしいワインが飲めるようになる。そして好きなワインで資産運用もできる。ワインファンとしてそうなってほしいと願っています。
現物ではなく、ワインを造る企業に投資する「ワイン株」の記事も書きました。